激戦区・横浜で評判の個人直売所

週3日、4時間だけ開店する個人直売所がある。名前は「FRESCO(フレスコ)」。神奈川県の私鉄線・相模線「西谷」駅から徒歩2分だが、幹線道路から1本入った畑の中にあり、商店としては好立地とは言い難い。しかし、開店前から行列のできる人気の直売所なのである。

農業ビジネスマガジンVol.21(2018年4月発売)より転載

写真/市川法子、合田昌史

2020/08/12

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午後2時、開店と同時に小さな店内は並んでいたお客たちであふれる。追加補充はしていくが、開店時間が短いため「なくなってしまう」と感じるお客が多いのだ。

市場出荷で産地に負けたのが原点

東京都に次ぐ370万人の人口が暮らす神奈川県横浜市には直売所が多い。市域の7%が農地で、周辺に消費者がたくさんいるから直売所が成り立ちやすいのだ。しかし、都市部だけに専業農家となると数が限られる。それも直売所だけで生計を立てている農業者はごく少数だ。

苅部博之さんは、そんな数少ない農業者の一人だ。個人直売所「FRESCO(フレスコ)」を立ち上げたのは1999年。農家の次男だったが農業が大好きで、大学農学部を卒業していったんは大手企業に就職したが1年で退職、江戸時代から続く苅部家の13代目を継いだ。父は地域の「値頭」(値付けの基準となる生産者)を務めるほどの野菜名人。そんな父に憧れて農業を始めたが、すぐに市場出荷で悔しい思いを味わった。

「うちはキャベツを中心に、葉もの野菜やダイコン、ジャガイモなどを栽培して市場へ卸していました。キャベツなら嬬恋や銚子、県内では三浦など有名な産地があって、そういう産地の出荷時期の隙間を狙って出荷するんですが、それでも市場に残る鮮度の落ちた、ものも良くない産地のキャベツに価格で負けるんです」

市場では農産物そのものの善し悪しではなく、供給力のある産地の名前に価値が付く。「朝、収穫して、軽トラで20分の卸売市場へ持ち込んだ鮮度抜群の野菜名人のキャベツ」も、市場では価値を認められない。ならばステージを替えればいい、と苅部さんは気づいた。市域で農業を営む都市農家の自分の強みは、畑の周囲に消費者がたくさんいること。その消費者に市場を経由せず直接、販売するのだ。

約20年前は道の駅もJAのファーマーズマーケットもまだなく、農家の直売所といえばメロンやモモなど単価の高い果物や施設栽培のトマトを売るところがほとんどだった。視察に行った先々では「メイン作目がないと経営は厳しいよ」と言われたが、かえって肚を括れた。

「それならうちは〝旬〟をメインにしよう」

常連客が大半。4時間に100人近くが訪れる。

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