天敵利用を簡単にする発明品〈バンカーシート〉

化学農薬の代わりに天敵で害虫を退治する防除方法は、欧米などの諸外国のほうが、よりさかんだ。
そんな「天敵利用の本場」の開発者も一目置いた、天敵製剤の補助資材。
使うタイミングの難しさや使用農薬の制限といった、これまで天敵利用をためらわせていたハードルをグッと下げてくれる。
発売から1年、シンプルな構造ながら納得の効果で、野菜生産者たちの間で少しずつ広がっている
この資材の開発者に話を聞いた。

農業ビジネスマガジンVol.20(2018年1月発売)より転載

2020/08/07

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「バンカーシート」は立てたり吊したりして作物のすぐ近くに設置する。

 

初心者が使いやすい
天敵パック製剤

たとえば、イチゴの生産者でハダニに悩まされない人はいないだろう。厄介なことにこの害虫は薬剤抵抗性が高いため、やがてどんどん農薬散布回数が増えてしまうのも生産者の悩みの種だ。

そんな悩みの解決策となるのが、天敵の導入。だが、生きものである天敵は扱いが難しい。天敵を入れると使える農薬が限られてしまうことも、万一、病害虫の被害が広がったらと考えると二の足を踏んでしまう。

「作物の栽培に日々忙しく働いて、経営のことにも頭をめぐらせなくてはならない。そんな生産者が新しい防除体系を勉強し、リスクを覚悟で天敵利用を始めることは非常にハードルが高いと思います」

農研機構・中央農業研究センターの下田武志さんは言う。天敵の研究者として、農業現場でデリケートな天敵を扱うには相当な知識と経験が必要になることを理解していた。忙しい生産者に大きな負担を強いることなく、天敵を農業に活かしてもらえる方法を模索していたという。

そこで考えたのが、既存の天敵製剤の使い勝手を、資材で向上させることだ。

「たとえばハダニの天敵となるカブリダニの天敵製剤には、おもにボトル製剤とパック製剤という二通りのタイプがあります。それぞれ長短あって、作物に振りかけるだけのボトル製剤は、手軽で速効性が期待できることがメリット。撒けばカブリダニがすみやかに広がってくれるから、ハダニがいればすぐに食べてくれます」

カブリダニの種類やメーカーにもよるが、2000頭で1万円前後と天敵製剤としては比較的安価なのも長所だ。ただし散布(放飼)のタイミングが重要で、害虫が少な過ぎると天敵は死んでしまうし、かといって待ちすぎるとハダニなどはあっという間に増えてしまう。増えすぎてから天敵を撒いても食害のスピードに追いつかないことも多い。

もうひとつのデメリットが、作物に散布する農薬によっては天敵に悪影響をおよぼすこと。農薬の種類ごとにどの天敵に影響があるかを記した一覧を見ながら、使える・使えないをチェックしなければならず、ここぞというときに使いたい農薬が使えない場合もある。

「その点、パック製剤は、天敵を使い慣れていない人にも比較的わかりやすいのがメリット。パックの中にはフスマが入っていて、しばらく天敵を住まわせておけます。フスマの中にはカブリダニと、そのエサとなる無害なダニ、そしてそのダニが食べるエサが入っていて、フスマのなかでカブリダニが増える仕組み。増えたカブリダニはパックの表面に空いた微細な穴から、1〜3ヵ月かけて少しずつ外へ出てくるので、天敵を撒くタイミングをあまり気にしなくて済みます。害虫が増えそうな時期の前に作物の近くにパックを置いておけばよく、初めての人でも比較的簡単に扱えます」

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