カブリダニに
快適な〝家〟を!

ただし、パック製材はボトル製剤に比べて製造に手間がかかる分、値段も張る。そして見過ごせないのは、パックの内側にいる天敵が意外に外の環境の影響を受けること。天敵にとって禁忌となる農薬がパックにかかると、中の天敵にも悪影響がおよぶことがよくあるという。

「それに、たとえば育苗箱に置いていてひんぱんに灌水を行っていると、パックに水がかかって中のフスマが濡れ、か弱いカブリダニが溺れ死んでしまうこともあります。またカブリダニは乾燥にも弱いので、乾燥したハウス内などでは数が増えず、逆に減ってしまうことも」

下田さんたちの実験では、ハダニを食べるカブリダニの一種、ミヤコカブリダニの場合で、パックの中の湿度が80%ほどに保たれて初めて、ミヤコカブリダニがどんどん増える理想的な状態になったという。

「つまり栽培ハウスの中は、カブリダニという天敵にとって、場合によってはシビアな環境になりやすいといえます」

パック製剤は海外製。中のフスマやエサ、表面に空いた微細な穴の形状・数などは研究し尽くされているのだろう、最適な環境下では天敵がよく増えて、3ヵ月ほどにわたって圃場に天敵を放飼してくれるという。環境さえコントロールできれば防除に役立つすぐれた製品といえるし、初心者にも使いやすい。

「そこで、天敵がパックの外から受ける影響を、できるだけ減らすことを考えました。具体的にはパック製剤を保護するシートです。最終製品はケース状ですが、初期の試行錯誤の段階では組立式のシート状で、バンカーシートと呼んでいました。それをそのまま正式名称に。苦心の跡をちょっと残したかったのもありますね」

薄緑色のラインが入ったミヤコカブリダニのパック製剤を使ってバンカーシートをセット。

天敵パック製剤の利点は、パックという住み処とエサがあること。か弱く小さいカブリダニの生存率を高めてどんどん増殖させるには、さらに頑丈な〝家〟を用意して快適に過ごしてもらう必要がある。パックをすっぽり覆う〝家〟が「バンカーシート」。作物の近くに天敵のエサとなる虫が棲み着く植物(バンカープラント)を植えて、天敵を居着かせる「バンカー法」にならって名付けたものだ。ポイントは、農薬や灌水の影響を防ぎ、内部は高い湿度が保てること。

「シートは耐水性のある紙製で、イメージとしては牛乳パック。外から水を通さないので、農薬の影響もごく少ない。たとえ影響の強い農薬がかかっても、中にいるカブリダニは生きていられることが実験でわかっています。そして内部の乾燥対策ですが、保水資材を入れることで解決しました。水を入れずに植物を育てるときなどに使う、吸水性ポリマーに水を含ませたジェルです」

ジェルの保湿効果は環境によって変わるが、だいたいカブリダニがパック製剤から出尽くす2〜3ヵ月程度は保ってくれる。

「バンカーシートの中でパック製剤から這い出たエサのダニと天敵のカブリダニは、最初にパック製剤に巻かれたフェルトに取り付きます。フェルトが湿っていて毛羽立っているので、ダニには居心地がいいんです。また、カブリダニはこうした毛羽立ったところに卵を産む習性があります。パック製剤の中でも卵を産みますが、出てからも産卵場所がある。二段階で増えることができます」

湿度が高くスペースも広くなった快適な家の中で、エサのダニとカブリダニはどんどん産卵して増えていく。やがてバンカーシートの隙間から這い出て圃場に放飼されるカブリダニの数は、パック製剤のおよそ3倍にのぼることが実験でわかっている。

左)パック製剤にフェルトを巻き付けてシートに入れる。微細な穴から這い出たエサのダニと天敵カブリダニが、毛羽立ったフェルトの上に居心地よく取り付く。
右)吸水性ポリマーのジェルを入れる。1パックに5つが基本。

1 2 3