費用対効果では測れない
天敵をベースにした
体系の確立に

バンカーシートは単体では販売していない。2016年12月に発売された商品は、天敵パック製剤とバンカーシート、それに保水資材とフェルトが各100ずつ入ったセット販売。パック製材は、ハダニを食べるミヤコカブリダニと、アザミウマやコナジラミなどを食べるスワルスキーカブリダニの2種類。使用量は、野菜類のハダニで10aあたり100パックが目安だ。

メーカーである石原バイオサイエンス㈱からJA全農を通じて全国の生産者に販売されているため、価格などは地域のJAに問合せが必要。こうした資材自体が初めてなので、JAで希望者に対して講習会を開き、使い方をレクチャーしているところも多いようだ。

バンカーシートは、平成26年度の農食事業(農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業、実用開発ステージ26070C)に採択された研究として、農研機構・中央農研が中心となって実用化技術を確立した。2017年11月には利用マニュアルの第1弾として、全国産地の協力で促成/抑制キュウリ、促成ナス、促成サヤインゲン、促成イチゴでの利用体系を公表。ほかに花卉類や、土着天敵を組み合わせた果樹でのバンカーシート利用マニュアルも作成中。第2弾で公表する予定という。

乾燥から天敵を保護するバンカーシートの効果

出所:バンカーシート利用マニュアル2017年版(第一版)より

・2種のカブリダニは乾燥に弱い(湿度70%以下で影響がある)
・バンカーシート内に湿度調整剤を導入することで、設置時の乾燥条件から天敵が保護され、長期間の増殖・放出につながる
・従来のパック製剤よりもバンカーシートのほうが天敵放出数が多い

グラフ=比較的乾燥した(施設内の一般的な湿度環境に近い)環境下での天敵放出性

バンカーシートおよびパック製剤からのスワルスキーカブリダニ累積放出数
(温度20℃、湿度60%)

温湿度をコントロールした恒温器に試験容器を設置し、バンカーシートやパック製剤から試験容器に放出されるミヤコカブリダニの個体数(累積)を調査した。石原産業㈱による予備調査結果。

「2017年第1版の利用マニュアルでは、ナスやイチゴ、抑制栽培のキュウリで育苗期からの天敵導入を推奨しています。天敵カブリダニは非常に小さいので、小さな苗の状態のほうが移動がしやすく、密集している育苗期に置いておけば各株に取り付きやすいのです。そのまま定植すれば、よりきめ細かくカブリダニが広がる。育苗期に使わなければならない化学農薬を、1つでも減らすことができればと思っています」

天敵製剤はボトルであっても化学農薬より割高だ。だが冒頭で示したように、化学農薬は害虫の薬剤抵抗性とのイタチごっこ。ひんぱんに散布すれば生産者の労力や経費がかさみ、人間の健康にも悪影響をおよぼす。このことに限界を感じて天敵を導入するというケースが多く、天敵利用のメリットは費用対効果では測れない。

自分の農業の持続可能性を目的に、天敵をベースにして化学農薬を効果的に使う防除体系にシフトしたい──どこかでそう思っていた生産者も少なくないだろう。だが、天敵製剤の扱いの難しさが多くの生産者を阻んでいたとすれば、バンカーシートは、その谷に橋を架ける発明品といえそうだ。

農研機構・中央農業研究センター
虫・鳥獣害研究領域 上級研究員
下田武志さん

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