温暖化に適応した生産性の高いイネを作出

2021/05/07

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東京大学大学院農学生命科学研究科の矢守航准教授らの研究グループ(日本学術振興会、神戸大学、東北大学、岩手大学との共同研究)は、地球温暖化に適応した生産性の高いイネの作出に成功した。野生型イネと比較して、高温環境における光合成速度を約20%、最終的な植物耐重量を約26%向上させることに成功した。

温暖化によって作物の光合成が抑制されるメカニズムの解明につながり、対策を講じることで食料やバイオマス資源の増産に貢献することが期待される。

近年の温暖化による地球規模の環境劣化や開発途上地域での爆発的な人口増加などにより、食糧の安定供給は人類にとって最も重要な課題といえる。植物の生産性を左右する光合成は高温の影響を受けやすく、地球の年平均気温が1℃上昇するごとに世界のイネの収量は17%減少するといわれている。しかし、高温に対する光合成応答機構は複雑なことから改良のカギとなるターゲットは未だに明らかにされておらず、高温耐性作物の開発は遅れている。

高温での光合成能力低下は、光合成システムの障害を通じて起こることが知られており、特に光合成の二酸化炭素(CO2)固定酵素「ルビスコ」の不活性化であることが主な要因となる。しかし、植物には、不活性化したルビスコを再活性化するルビスコアクチベースという酵素も存在。高温条件で植物の光合成能力が低下する要因は、不活化したルビスコがアクチベースによって再活性化されないこと、つまりアクチベースが失活するためであると考えられている。

これまでの研究で、高温環境における光合成能力の改良のために、アクチベースを高発現する形質転換体イネを作成し解析したところ、予想に反して、アクチベース量の高発現に伴ってルビスコ量の特異的な減少が引き起こされ、その結果、光合成能力が低下してしまうことが明らかとなっていた。

地球温暖化 ルビスコ イネ 高温耐性品種 東京大学 

熱安定性の高いアクチベースをイネに導入することによって、高温環境における光合成速度と植物成長の促進に成功。(出典:東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部研究成果より)

そこで矢守准教授ら研究グループは、トウモロコシ由来のアクチベースとイネ由来のルビスコをイネに導入。作出した形質転換イネから選抜し 、ルビスコ量が減少せずアクチベース量が約2倍増加した二重形質転換体イネを複数系統作出することに成功した。

地球温暖化 ルビスコ イネ 高温耐性品種 東京大学

RubiscoとRCAの二重形質転換体イネの植物成長量 25℃および40℃において75日間栽培した後に、地上部の乾燥重量を解析した。RCA:アクチベース、Rubisco:ルビスコ。(出典:東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部研究成果より)

次に、これらの二重形質転換体を、温和な環境(25℃)と高温環境(40℃)で栽培し、それぞれの栽培環境下における光合成応答と植物成長を解析。屋内型人工気象室で、播種後10週間目まで成長させた植物個体の最上位成熟葉を用いて、25℃と40℃における光合成速度とルビスコ活性化率を測定した。すると二重形質転換体の光合成速度とルビスコ活性化率は、25℃では野生株と同程度だったが、40℃では有意に高い値を示した。また、個体の地上部乾燥重量を測定したところ、二重形質転換体は野生株に比べて26%増加することがわかった。

同研究成果により、ルビスコ量を減らさずにアクチベース量を増やすことで、近未来に予想される温暖化環境において、イネの光合成能力と生産性を向上させることが可能であることが明らかになった。

高温耐性品種と新たな栽培技術により、温暖化に伴って生じる高温や気象変動リスクによる減収と品質低下を回避できれば、経済効果が約900億円程度に上ると試算されている。

今後、近未来の温暖化環境で光合成が抑制されるメカニズムの全貌を解明し、全ての抑制を解除すれば、光合成効率の改善だけでなく植物のバイオマス生産量確保のための技術開発につながる。また、食料増産や地球レベルの大気中CO2濃度の削減への貢献が期待される。

同研究成果は4月28日付で、Plant, Cell & Environment誌に掲載された。

東京大学大学院農学生命科学研究科・農学部 研究成果