冬春が供給過多なら私は夏秋で勝負する!

株式会社リコペル(山梨県北杜市)代表 米田茂之

隔離土耕栽培|作型変更で収益アップ!
気鋭の若手農家が挑むトマト価格下落の打開策

農業ビジネスベジVol.31(2020年秋号)より転載

写真/鈴木 忍、リコペル

2021/08/20

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株式会社リコペル代表の米田茂之氏は33歳で新規就農。理系出身で、新しい技術や資材を積極的に取り入れ、合理的な栽培をめざす。2018年に開設した長坂農場の33aの多連棟型トマトハウス。全部で34レーンあり、写真手前の11レーンまではミニトマト、それより奥では大玉トマトを栽培する。

近年、冬春トマトの供給増加による価格の下落が、トマト農家を悩ませる大きな問題となっている。とくに顕著になったのは2016年に起きた熊本地震以降だ。復興需要もあり、熊本が県を挙げて冬春トマトの増産に乗り出した結果、熊本県内のトマト生産量は2017年から2018年にかけて約9千トン増加。また、17年・18年は、春先にトマト栽培に適した温暖な気候が続き、全国的に収量が増えたことも価格の下落に拍車をかけた。東京都卸売市場のデータを見ると、17年・18年の2月〜6月のトマトの平均取扱価格は、震災以前の15 年に比べて軒並み下落しており、最大で150円近くも値下がりしていることがわかる(グラフ1)。価格は現在も震災以前の水準には戻っていない。

「このままではまずい。焦りを感じました。冬春トマトの生産を行う農家の経営モデルは、冬場の12月〜2月は暖房費がかかって薄利になりますが、そのぶん春に収量を確保して利益を出すというスタイル。震災以前はまだ値下がりしていなかったので、このやり方でやっていけましたが、ここまで春先の価格が下がると、収量が出ても赤字になる恐れがある。何とかこの状況を打開する策を考える必要がありました」

こう語るのは山梨県北杜市でトマトを生産する農業生産法人、株式会社リコペルの代表取締役・米田茂之氏(39)。非農家出身で、金融や医薬業界でビジネスの経験を積み、2014年にリコペルを立ち上げて以降、年々売り上げを伸ばしてきた。

価格下落に対抗する「打開策」として米田氏が打ち出したのは、トマトが品薄になる秋を狙って出荷できる作型への切り替えと、顧客のニーズに応える商品づくりだった。リコペルでは、2019年まで冬春作の中玉トマトをメインで生産していた。しかし、2020年からは初夏に苗を定植して夏〜翌年春まで収穫を行う夏秋作に完全移行し、トマトの種類も中玉の生産をやめ、顧客から強く求められた大玉とミニに切り替えた。

大きな方向転換を経て、今なお成長を続ける若い農業法人。その戦略について詳しく話を聞くと、今回の作型の切り替えの他にも、経営のピンチを柔軟な対応で切り抜けて、現在まで規模を拡大してきた軌跡が見えてきた。

中央高速沿いに位置し、標高約600m、周囲は森林。(写真/リコペル)

農業なら新規参入でも企業拡大ができる

リコペルは現在、北杜市の4カ所に合計約102aの圃場を持ち、大玉・ミニの夏秋トマトをメインに、四季なりのイチゴとブルーベリーも生産する農業法人だ。従業員は28名で、そのうち6名が正社員、5名が海外からの農業実習生となっている。

代表の米田氏は広島県出身。高校卒業後は山口大学農学部に入学し、九州大学農学部の大学院に進学したが、専攻が生命科学だったため、いわゆる作物を育てる「農業」とはほぼ無縁だった。

「発生学の分野で、カエルの細胞について研究をしていました。大学院に進学して修士課程を修了したのですが、就活中に研究職よりもビジネスに携わりたいという思いが強くなって文系の業界を受け、最初に内定をもらったのが野村證券でした。当時、大学のOBが立ち上げた眼科医薬品開発のベンチャーにも参加していたのですが、本格始動まで資金集めに時間がかかりそうだったので、それまで大手企業で経験を積むのもいいだろうと入社し、東京で証券アナリストとして働き始めました」

その半年後には、予定よりも早く先述のベンチャー企業が資金集めに成功。証券アナリストの仕事も楽しかったというが、「解説や分析よりも、自分がプレイヤーとなる仕事をしたい」と退社してベンチャー企業に参加し、その後、大手企業向基幹システムの法人営業や、病院立ち上げの医療コンサル業務なども手がけた。

金融、メディカル、IT関連の分野でビジネスの経験を積んだ米田氏が、まったく異なる分野の農業に参入したのは33歳のとき。いずれ起業したいという思いはずっと抱いていたというが、なぜ農業だったのか。

「それまで携わってきた業界は、お客さんの顔が見えにくくて、商売をしているという実感が比較的薄かったんです。たとえば、製薬業界では薬の完成までに何年も研究と試験を続けるので、エンドユーザーとの距離がとても遠く感じられた。

自分が作ったものをお客さんが買って、喜んでくれるのを実感できるのは、やはり『もの作り』の世界。そのなかで30歳前半で参入しても遅くなくて、法人として事業拡大できるもの、と考えると、農業が面白そうだなと。様々な栽培法の研究成果がすでにあって、IoTの活用といった新しい取り組みも進んでいる。一方で農業人口は急激に減少していて、新規参入でも十分に伸びる余地がある業界だと感じました」

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