〈座談会〉飲食店との付き合い方、教えます

畑から旅立った野菜がシェフの手で美しい一皿に変わる──生産者としてのやりがいを見た目でも感じられるのが飲食店取引だ。野菜やハーブを信頼できる生産者から直接買いたい飲食店も増えた。ただし、飲食店取引を農業経営の柱にするには覚悟がいるし、創意工夫も必要になる。西洋野菜やハーブなどの飲食店向け野菜を栽培し、レストランに卸す若手ファーマー三人組が、飲食店取引の実情を本音トーク!

農業ビジネスベジVol.24(2019年冬号)より転載

撮影/合田昌史、伊藤靖史 料理写真提供/ベポカ

2021/04/16

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吉野 悟/池田和弘/五十嵐和泉

(左)よしの・さとる/YOSHINO HERB FARM。1976年生まれ。元映像ディレクター。父の急逝で2013年に千葉県柏市の実家の農業を継ぐ。都内の高級レストランとの取引を目標に一流レストランの料理を研究。使われるハーブ類や西洋野菜を栽培し、シェフへの提案もおこなう。都内と柏市内のレストラン約30店舗と取引。
(中)いけだ・かずひろ/さいたまヨーロッパ野菜研究会所属。1985年生まれ。埼玉県岩槻市(現さいたま市)で江戸時代から続く農家の13代目。実家は山東菜を通年栽培する専業農家で、就農数年後に地域の仲間に声をかけられ西洋野菜の栽培を始める。一人で手がける西洋野菜は全量を飲食店へ。一部はシェフが畑へ買いに来る〝畑取引〟。
(右)いがらし・いずみ/屋号「Rinnosuke」。1976年生まれ。高校卒業後に東京の音楽制作会社でアルバイト後、通信会社のデータセンターに勤務。21歳で山形県鶴岡市にUターン就農。実家はコメ農家だが昔から野菜を直売し、自身も約10年前に西洋野菜の栽培を開始、飲食店取引を始める。

吉野(以下 吉) 飲食店向けの栽培を、うちは母と妻と自分の家族3人でいるけれど、池田さんのところの手は一人。面積にも限界がありますよね。

池田(以下 池) だいたい30aが限度ですね。

 うちも飲食店用に限れば30a。でもフルに作ったら売り切れないですよね。個人農家が付き合える飲食店の数はたかが知れている。僕は約30店なので、1haでラディッキオを作ってもさばききれない。少ない面積で濃い付き合いをするのがポイントだよね。

五十嵐(以下 五) たまには変わったものをと、知り合いの農家がコールラビを作付けたんだけど、いつものやり方で畑一面作っちゃって、結局、売り先に困っていた。

 僕らは、アブラナ科でまとめたりはするけれど、だいたい一畝ずつ違った品目や品種を植え付ける。でも一般的には、1枚の畑で同じものを作らないと作業効率が極端に落ちるからね。

 ひとつの品目を年間通じて出荷する農業のスタイルは、作業効率が良くてラクですよね。うちは山東菜がそうですが、僕のやってる飲食店向け野菜は、もうすべて手作業。品種が違うと管理も違うから効率は悪いです。

 うちは3人で、細かいものも入れれば年間300品目くらい作る。でも一品目の量は少ないし、ハーブのように植えっぱなしのものが常に50種類くらいはある。

 ハーブは何十種類にもなるよね。うちも栽培は家族も関わるけれど、収穫は自分でやります。というのも、お客さんの飲食店はそれぞれ求めるサイズが違うから。

 そうなんだよね。うちは母親や嫁さんも収穫するけれど、最後にはおれがチェックするもの。

 あと、家族に××収穫しておいてと頼んでも、間違ったもの採ってることが多々ある。名前と姿を覚えられないみたい。

 でも、自分ではない誰かが収穫して、どんな状態か見ていないものをポイッと送れちゃう人は、飲食店と付き合えないと思う。やっぱり自分の品質基準と照らし合わせないと。

 そうね。収穫やパッキングの状態を確認せず、荷姿や到着時の状態も気にならない、送ったら終わりって人は、たぶん2、3回でお付き合いが終わるよね。今回、僕は鶴岡から東京へ3日間出てきていて、その間にもオーダーは入ってるんだけど、待ってもらっている。

 出かけるときはお休みにするよね。でも、出かける当日の朝に注文が入るとか、それも1パックとか、よくあります。使う量はお店次第なので。そういう注文を嫌がっていたら、やっぱりお客さまはいなくなる。

 うん、僕もハーブを鶴岡から東京の取引店まで持ってきたこと、ある。たまたま東京に来る用事があったからですけど。

 ビジネスのお付き合いだから多少の無理は聞くというのもあるし、純粋にその店のシェフ、その店の料理が好きというのもある。野菜を介した付き合いだけど、一定のクオリティをクリアしたら、あとは人間同士。いかに気持ち良く仕事ができるかだよね。

 

 僕の場合、直取引のお客さんは1割にも満たないんです。有り難いことに最近、お客さまから今度オープンするお店を紹介いただいたりして直取引が何軒かつながり始めて。ただ一人なので、卸業者に間に入ってもらっての取引を主体に、直取引を少しずつ増やしていこうと思ってます。

 ある意味、卸業者が調整弁になってくれるんですよね。本来、そういうパートナーがいれば経済的にもだいぶラクだし、精神衛生上もいいと思う。だって自分の野菜が収穫適期を過ぎて、目の前でどんどん食べられなくなるのを、見ているしかないってキツいですよ(笑)。池田さんは卸をうまく使うスタイルを構築している。

 僕は先輩のお二人からレストランとの直取引について教わって、アドバイスをもらえたので。だから、もしかしたら本道からは外れると思いつつ、卸を利用してムダをなくす形を最初から考えました。

 おれも池田さんと似たような感じで、量とサイズ調整のために地元の仲卸さんに入ってもらって、主に隣の酒田市に多いフレンチに卸してます。

 五十嵐さんは、地方からいきなり東京の星付きレストランにも野菜を送っている。すごいよ。

 そんな生産者は、ほかにもたくさんいるでしょ?

 いるよ、特産のもの1品目とかなら。たとえば、京都の料亭は柏の名産・豊四季かぶを喜んで使うけど、柏からダイコンが届いても喜ばないでしょ。でも五十嵐さんは産地ではなく、「この人」から野菜を買いたいと思わせている。

トップシェフが畑を訪ねて来た

──五十嵐さんは最初、西洋野菜を地元の産直へ出して売れなかった経験をしていますよね。東京のイベント出店をきっかけに飲食店との取引を?

 まあ、そうですね。鶴岡市と江戸川区が姉妹都市で、市が配送トラックを手配してくれたので江戸川区のイベントで野菜を売ったんです。東京側の関係者の息子さんが都内のフレンチのセコンドシェフで、イベント後、山形旅行のついでにうちを訪ねてくれて、その店に野菜を送るようになったのが最初。そこからお客さんが広がったわけじゃないんですが、レストランに向けて野菜を作って送るというやり方を学びました。しばらくすると地元のレストランから声がかかって、今度は飲食店同士のつながりで、東京のレストランからも連絡が来るようになった。

 あと、産直に置いてあった野菜からもつながったじゃない、ミシュラン星付きのフレンチと!

──ええっ?

 2014年に鶴岡市がユネスコ食文化創造都市に認定されたので、全国的なイベントがあったんです。それに参加するために来た新橋のフレンチのシェフが、地元の産直で僕の出したイタリアンパセリをみて、畑を見たいと。役所の人から電話があって、その日に訪ねて来た。

 どんなスペシャルなイタパセ出したのよ(笑)。

 普通のですよ(笑)。で、僕は新橋にそんな有名なフレンチがあるなんて知らなくて、最初は居酒屋かと思ってたの。

一同 (爆笑)

 いろいろ見せたら、「いらないと言うまでハーブ類を1週間に一度、送ってもらえますか」と。そのときは、どんなお店かわからないし踏み倒されるかも、と心配したんですけど(笑)、万一の場合は役所に文句言えばいいやと送りました。結局いまも続いてます。

──吉野さんは、ここ〈ベポカ〉との取引が最初だったんですよね?

 そうです。つなげてくれたのは高校の同級生。オーナーと知り合いで、僕が就農したと話したら、東京の神宮前にできたばかりのペルー料理店があると。面白そうだし、やってみたいと思った。で、シェフが畑に来たとき、コリアンダーを通年で作れますかと聞かれ、やったことないのに出来ますと答えて取引が始まったの。焦りましたね、冬は全然育たないし、夏は溶けちゃうし。それでも何とか5年やって、すごく勉強になった。それまで外食はカレーとかラーメンとかの一皿料理ばかり。小さなポーションで出てくるコース料理に、シェフはどんな野菜を使うのか。どういうものを送ると喜ばれ、どんな状態だと嫌がられるのかが、何となくわかってきた。

──否定的なことも言ってくれます?

 うん。逆に、耳に痛いことも言ってもらえる関係にならないと続かない。届いた日や翌日のアイドルタイムに連絡して、どうでした?と自分から聞く。すると「○○はもう少し小さい方がいい」「ちょっと量が多かった」などと言ってくれる。おかげで「やばい、間違えてた」というのを何度も軌道修正させてもらえました。うちは「おまかせ」が多いけど、紅芯ダイコンを5本も入れたら使い切れなくて困るでしょ。

 ま、人によるけどね。その人を想像して中身を詰めるから。

──それ、だいたい合ってますか?

 合ってることもあるし、間違えることもある。間違えたときはハッキリ「僕はこれ使いません」って言われます。ハッキリ言ってくれる人には鍛えてもらえるし、どっちかが無理すると続きません。

 そうだよね。これからも取引したいと思ってくれてるから、嫌なこともあえて言う。でも言われたあとの落ち込みから立ち直るハートの強さは必要。おれ、2、3日はうなだれてますもん(笑)。良かれと思ってやってるから。注文受けて、空いたところにお勧め入れてくださいと言われて入れたら、「量が多すぎ」「うちじゃ使わない」。もちろん、お店のことをわかってほしくて言ってくれるんだけど。

 僕の場合は、ハーブだけ送っていたシェフから夏野菜も送ってほしいと言われて、ズッキーニを入れたら「うちではズッキーニ使いません」。え?夏野菜の筆頭でしょ? 後日、シェフと飲む機会があったので、なんでズッキーニ使わないのかしつこく聞きましたよ(笑)。ズッキーニは近くの八百屋でも買えて、1本100円。半分にしてグリルしたものが皿に載っていると、この部分の原価は50円とお客さんにわかる。すると、どんなにシェフが凄腕でもお客さんは興ざめしてしまう。ズッキーニが悪いわけじゃなく、一流店には合わないということ。

 これ、トップシェフはみんな気をつけているよね。

──でも、そうなるとトップシェフには珍しい野菜しか送れない?

 いや、普通の野菜でもいいんです。ただし、八百屋さんでは売っていないサイズとか。

 だから、ほぼオーダーメイド。

 こんな小さいサイズのニンジンってどこで売ってるの? とか、こんな色の野菜があるの? みたいな。なおかつ、若どりでも味がしっかりしていること。

 たしかに、「スーパーに売っていないもの」が中心ですね。そういう野菜はシェフの創作意欲をかき立てるみたいです。うちは発送ではなく、注文をもらって用意して買いにきてもらうので、受け渡し時に「この種類はあんまり使わない」などと言われることも。逆に、このシェフにいいかなと思って用意したものが当たりだと、目の前で喜んでくれるので嬉しいです。

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