「東京野菜」を都心に届ける!
株式会社エマリコくにたちは東京都国立市の地場野菜を扱う直売所としてスタートした。
2011年の創業から8年、今や直売所3店舗、飲食3店舗、従業員およそ50名、年商2億円ほどの規模まで成長。
2018年には都心の一等地、港区赤坂にも飲食店「東京野菜キッチン SCOP」を開業し、それに伴い都心への野菜流通もはじめた。
毎年のように新店をオープンし拡大を続けている同社だが、目指しているのはあくまでも「東京農業の活性化」という課題にとりくむコミュニティビジネスだ。
農業ビジネスベジVol.26(2019年夏号)より転載
文/小野 淳 写真/合田昌史
2020/08/18

くにたち野菜 しゅんかしゅんか(国立市) 国立駅前徒歩5分。直売所1号店
直売所3店舗はスタッフが一国一城の主
エマリコくにたちが運営する直売所の第1号店、国立駅近くにある「くにたち野菜 しゅんかしゅんか」の朝は自社便による集荷からスタートする。創業初年度(2011年)で市内を中心に約30軒の農家と取引を開始、今では近隣の立川市、国分寺市、日野市などに約100軒の取引農家がいる。
これらを統括するのが副社長の渋谷祐輔氏だ。直売所3店舗、飲食3店舗に加え、スーパーなどの卸先の発注を取りまとめて取引農家に出荷依頼をかける。集荷は自社で行い、スタッフが2台の車に分かれ、1日2回、集荷にまわる。
この「1日2回集荷」という圧倒的な鮮度感が、地域に支持される大きな理由だ。店頭に並ぶのは「その日に農家から集荷した野菜」が原則で、当日入荷でない野菜は入荷日を明記してセール価格に値下げする。
3つの直売所のなかで最も売り場面積が広い「のーかる」(立川市)の店長、佐藤広樹氏は自ら集荷に回ることも少なくない。
「集荷はただ野菜を集めて回るだけではなく、情報収集の意味も大きいです。雨や雪などの天候不順の影響がどれだけ畑に出ているのか直に目にすることも多いですし、集荷のついでに聞いた農家さんのこだわりや栽培の裏話、さらには会話のなかで感じた農家さんのお人柄が、そのまま野菜のセールスポイントとなることも多いんです」(佐藤氏)
店内にあるさまざまな手作りPOPや顧客向けのニュースレターには、そうして集めてきた生産者の温度感を伝える文言があふれている。一般的にJAなどの直売所は委託販売方式で、売上に準じて店舗が手数料をとり、余った商品は生産者が引き取ることが多いが、エマリコくにたちは買取りにこだわる。自らのリスクで買い取って値付けをするので、店長に課せられたミッションは「その日に入荷の野菜は、その日に売り切る」だ。それゆえに入荷が多い旬のものは性根をいれて客に売り込む。
「旬は瞬間」という言葉が転じて「しゅんかしゅんか」という店名になったそうだが、刻々と失われる野菜の鮮度が落ちないうちに消費者に届ける、というある種の緊張感も店を活気づける要因になっているようだ。
JR中央線、西国分寺駅改札を出てすぐのエキナカ店舗「にしこくマルシェ しゅんかしゅんか」では、毎月、売り場のどこに何の野菜を配置するのかを図面にして、社内で共有している。店長の井上夢菜氏は半年ほど前に店長になったばかりだ。売れ筋となる野菜は毎月変わるので、昨年のノウハウを生かすために元店長とこの配置図を共有することで、より精度の高い店づくりを心がける。こうした努力の積み重ねで、売れ残ってロスとなる野菜はほとんどないという。
流通を担当する副社長に対し、店舗を統括するのは社長の菱沼勇介氏。
「私は各店長に対して上意下達的な指示を出すことはほとんどありません。課題に対して一緒に考えたりアイデアを出すことはありますが、仕入れの品目も数量も基本的には店長次第。接客のマニュアルすら設けていません。私たちが目指すのは『温度のある空間』です。それぞれの店の個性を伸ばし、それぞれの店のファンを増やしていきたい。野菜の鮮度と品質だけでスーパーなどの量販店と勝負するのは難しいですから」
「くにたち野菜 しゅんかしゅんか」の店長、岩田野花氏は開店1年目からのスタッフ。社員となって7年間店長を務めてきた。
「店長をやっていて楽しいのは、お客さんも農家さんも『八百屋のおねえちゃん』として気軽に話しかけてくれることです。こっちも遠慮なくおすすめの野菜を売り込みます(笑)。ただお店としては、野菜の売り上げだけでは弱いんです。蜂蜜とか手作りクッキーとかでしっかり利益を上げつつ、その分思いっきり野菜を売らせてもらうのが気持ちいいですね」(岩田氏)
直売所各店舗の日販を平均すると10~15万円。近隣に競合店舗などができると一時的に売り上げはダウンするものの、徐々にもちなおして結果的に開業以来前年比で微増を続けている。
生産者に対しては価格・品質・反響をまめにフィードバックする。生産への意欲を高めてもらうことで品質も鮮度も向上するからだ。ときには市況と照らし合わせ
「この価格では安すぎるでしょう。もう少し高く買いますよ」と生産者に提案することもあり、こうした生真面目な姿勢が生産者、消費者双方からの信頼にもつながっているようだ。