平均年齢28歳の農業法人 国産バナナに未来賭ける

鹿児島県南九州市 神バナナ株式会社

若者の仕事がなくて人が減る―― 地方の抱える問題の一つが、これだ。
正確には「夢を持てる仕事がない」。しかし九州の南端に近いこの農園には
1年で20人近い若者たちが集まり、バナナの栽培に夢中になっている。創
意工夫とアイデアで「捨てるところのない農業」をめざす。
新作物でニュービジネス

農業ビジネスベジVol.23(2018年秋号)より転載

写真/川内良一

2021/01/08

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昨日も社長を含めたみんなでボウリングとカラオケを楽しんだという若い従業員たち。「休みは月に4日、朝から晩まで暑い中での作業、ボーナスなしと条件だけ見るとブラック(笑)。なのに実際はキツく感じないんです」と松本氏。

日本で開発されたバナナ苗

通常の半分というスピード生長

「昼の日射が強すぎると、こうして勝手に熟してしまうんです。熟すとエチレンガスを出して周囲のバナナを老化させてしまうので」

バナナの木から黄色くなったバナナを取り去りながら、神バナナ株式会社の栽培スタッフの一人、下窪高秋氏が話す。

樹上で完熟させると柔らかくなりすぎるバナナは、家庭菜園以外では基本的に青いうちに収穫し、室と呼ばれる貯蔵庫で追熟させる。おかげで山の中にもかかわらず鳥獣害の被害はほとんどないが、困るのが虫。完全無農薬栽培をおこなっている神バナナの園地では、ハダニ、アブラムシ、ヨトウムシなどを見つけても農薬で駆除できない。見つけ次第、手でつぶしたり葉を取り除いたり、または灌水用のホースで水を勢いよくかけて落とす。

スタッフに農業経験者はいない。田中氏の指導を受け、試行錯誤しながらバナナの栽培法を固めていった。

A棟の半年後に苗を定植したB棟。まもなく収穫開始。

佐賀県みやき町のふるさと納税の返礼品にもなっている桐箱入りの神バナナ。

お客の手元に届いたときにシュガースポットが出るように出荷する(写真左)。室には桐の棚が並び、追熟を促進するアルコールが炊かれている。(写真右)

流通の99%以上を占める輸入バナナには、栽培期間中の農薬以外に収穫後にも防かび剤として薬剤が使用されることが多い。長期間の輸送を経る輸入農産物には必要な処置だが、「国産バナナ」なら無農薬で価値を高められる。

「カビも、こまめに風通しを良くすれば防止できます。たしかに無農薬栽培は大変な面もありますけど、バナナは手をかけただけ応えてくれる。頑張り甲斐がありますね」

同社のバナナは、凍結解凍覚醒法という特殊な方法で育てた苗を使っている。これは岡山市のD&Tファームの田中節三氏が考案した育苗法。バナナは株分けによって増やすが、この株を約180日間かけてマイナス60℃まで凍らせ、それから時間をかけて解凍することで、植物が原始から有する遺伝子情報を覚醒させる。すると一般のバナナより寒さに強くなり、日本の冬の低温でも枯れることがない。さらに生育期間が一般的なバナナの半分になり、糖度も上がるという。

それだけ聞くと一見、怪しげにも思える。しかし定植から収穫まで1年半かかるバナナが、神バナナの園地では、昨年5月の最初の定植から9ヵ月後の2月に収穫を始められたという。同社の松本歩氏はこう話す。

「当社のバナナの栽培ハウスは全部で約30棟。これをA~Cの3つのエリアに分け、順に定植をおこなっています。エリアごとに責任者とサブ責任者がいるんですが、生長が早いから毎日、背丈や葉の繁り方などで姿が変わっていくのが目に見える。そのぶん手をかけるのをサボれば、すぐに結果に出ます。バナナは大量の水を必要とし、一番大変なのが日々の水やりですが、面倒だなと思ってもバナナの木のことを思うと自然と身体が動く。やっぱり生長の早さがやりがいにつながっていると思います」

奄美ほどではないが、南九州市も夏から秋までいくつもの台風に襲われる。強風ではがれたハウスの屋根を修理するスタッフたち。

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