2 トリュフの生態と世界の栽培状況

トリュフは世界に180種以上

トリュフは菌類、カビの仲間です。分類学上は子のう菌門チャワンタケ目セイヨウショウロ科セイヨウショウロ属に属する種類の総称です。英語ではtruffle、属名であるTuberはその子実体の見た目からラテン語で「塊茎」「塊」を意味します。2008年の時点で、ヨーロッパ、アメリカ、中国、インドなど世界で86種が記載されていましたが、今では中国、メキシコやタイなどから新種報告が増え、100種を超えます。統計的な計算では、少なくとも世界に180種以上存在すると推定されています。

トリュフは樹木と共生する

トリュフをはじめ菌類は、他の生物から栄養を供給して生活する従属栄養生物で、その生活様式は大きく腐生、寄生、共生の3つに分けられます。トリュフはこのうち、植物と共生関係を築いて生活する共生菌です。その相手は生きている植物、おもに樹木です。樹木は光合成をして自ら有機物を生産し成長していますが、トリュフは樹木の根に「菌根(きんこん)」という構造を形成し(図2)、そこから樹木の光合成産物を受け取り、成長しています。

一方トリュフの菌糸は、樹木の根の太さでは入り込めない土壌間隙にまで菌糸を伸ばして養分を吸収することができ、菌根を経由して宿主樹木に供給することで持ちつ持たれつの共生関係が成り立っています(樹木の細根の直径はおよそ0.2~0.5㎜ なのに対し、菌糸はその100分の1程度の2~3μm)。トリュフと共生関係を築ける樹木は、ドングリをつけるブナ科や、カバノキ科、シナノキ科、マツ科などです。

トリュフのカラダ

植物との共生関係を維持しながら、どのようにトリュフが作られるのでしょうか。植物を例にトリュフのカラダを説明していきます(図3)。トリュフとして食用にされる部分は、学術用語では子実体といい、全体を厚めの外皮が覆い、グレバと呼ばれる中身では、白い菌糸の脈が迷路状に走り、その脈と脈の間に胞子と呼ばれる植物の種子に該当するものが作られます。子実体が胞子を作る器官であることから、トリュフ本体は植物でいうと花や果実に該当します。では植物の栄養吸収器官にあたる葉や根はというと、子実体直下に拡がる菌糸体や、菌根に該当します(図2)。茎にあたる部分は花と栄養吸収器官を繋ぐバイパス部分ですので、菌糸と言えるでしょう。つまりトリュフ本体は地中の菌糸や菌根として存在し、子実体は環境条件が整えば発生するものなのです。

発生直後の子実体からは始めは土の香りしかしませんが、3ヶ月ほどの時間をかけて成熟し、芳香を放つようになります。その香りを嗅ぎつけた動物がトリュフを食べ、糞に含まれた胞子が排出されます。動物の消化管を通ってもトリュフの胞子は生きているのです。

動物とともに移動し排出された胞子は土の中で発芽して菌糸を伸ばし、運よく近くに共生できる樹木があれば、その根に定着して菌根を形成します。そして菌根から伸びた菌糸は土壌中の同種のトリュフの菌糸と融合し、子実体形成に入るのです。

ただしここでトリュフの生き物としての難しさ、言い換えれば生き物としての面白さがあります。それは動物と同じように、オスの菌糸とメスの菌糸の交配によって子実体がようやく形成されるということです。このことが明らかにされたのは、2010年に黒トリュフ、T.melanosporumのゲノム(全遺伝情報)が解明されてからで、現在、子実体形成に際した地下部のオスとメスの菌糸の動態研究が注目され、海外で盛んに研究が行われています。

図2,図3

トリュフを探すブタの様子

トリュフはブタが探すことで有名になったが、現在は犬が主流。

動物を誘う香りの正体

動物を誘うトリュフの香り成分は、1種につき30~50の揮発性物質が知られており、主要成分や構成などは種によって異なることが明らかにされています。たとえば黒トリュフのT.melanosporumはジメチルスルフィド(海苔の佃煮臭)が、また白トリュフのT.magnatumは2,4-ジチアペンタン(ニンニク臭)が代表的な芳香成分として知られています。

なぜこのような香りを持つようになったかという考察があります。トリュフの祖先は、地上でチャワン型の子実体を形成していたと推定されています。これらは胞子を風で散布していましたが、徐々に球形へカタチを変え、それに伴い土の中で子実体を形成するようになったと考えられています。そして風による胞子散布をやめたトリュフは、動物に食べてもらうために強い香りを放つようになったと考えられており、トリュフ採取においてブタが用いられるのは(現在では犬が主流となっていますが)、トリュフにα-アンドロステロールという、オスの豚が発し、メスがフェロモンとして反応する物質を含むためと言われます。

19世紀から本格的に栽培化

トリュフの栽培化は19世紀から本格的に開始されました。フランスのジョゼフ・タロン氏によって、トリュフの発生するカシの樹下にドングリを撒くと、トリュフが増えるということが発見されました(タロン法と呼ばれる)。1970年代になってから、ポットで苗を育て、そこにトリュフの胞子を接種するという方法に改良されました。胞子を苗に接種して数ヶ月後に苗木の根にトリュフの菌根が形成され、その苗を整備した苗畑へ移植してトリュフが発生するのを待つという手順で、最初の子実体が発生するまで通常、7年はかかるとされています(図4)。

ヨーロッパで開発されたこの方法は、南アフリカ、北米、オーストラリア、ニュージーランドなど世界で広く用いられています。最近ではイギリスで黒トリュフの栽培化に成功したことが話題になりました。本来トリュフの発生しないオーストラリアやニュージーランドでは、1980年代後半から栽培化が始まり、今では100を超えるトリュフ園が立ち上がり、さらに北半球とは季節が逆のため、新たな販路として成功しています。

図4

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