元セリ人の八百屋が仕掛ける「完売生産」モデル

静岡県袋井市の農業ベンチャー、HappyQualityが目指すのは、本物のマーケットイン農業だ。
腎臓病患者が一家だんらんを楽しむための「低カリウムメロン」、
実際に小売の現場で売れている機能性野菜「高リコピントマト」。
〝農業素人がすぐに売れるものを作れる栽培法〟を確立し、
完売を前提にした全量買取のフランチャイズで若い農業者を増やしている。
青果マーケットの表も裏も知り尽くした元セリ人は、「農業の根本的解決」に向けて驀進を続ける。

農業ビジネスベジVol.27(2019年秋号)より転載

写真/金盛正樹

2020/08/07

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作替え直前のハウスで最後の収穫をするサンファーム中山の栗林伸明氏。静岡大学卒業後、圃場整備のアルバイトに来てスタッフになった。来春、他の3人とともにフランチャイジーとして独立する。

農業の素人が作る「必ず売れるトマト」

株式会社HappyQualityを率いる宮地誠氏のコンセプトは至ってシンプルだ。

「売れるものだけを作る」

作るのは同社ではない。メインの生産者は現在、平均年齢30歳以下の若者5人で構成する関連会社の農業法人サンファーム中山株式会社。静岡大学大学院で農学を学んだ玉井大悟氏らとともに、宮地氏がHappy社と同じ2015年に立ち上げた。社長の玉井氏を除く4人はほぼ農業未経験だが、設立から3年で黒字を達成──いや、達成するところだったが、18年9月末の台風24号による大規模停電でハウスのかん水ができず、ミニトマトをすべて枯らして数千万円の損失を出した。

「それまでの3年間は栽培モデルの開発に費やして、ものすごい赤字を出していましたからね。ようやくモデルが完成して、これで今年から黒字だ!と喜んでいた矢先でした」と宮地氏が苦笑いする。

「おかげでリスクヘッジを学習できた。発電機を設置して水タンクを大きくしただけですが、盲点でした」

宮地氏の言う栽培モデルとは、「まったくの農業の素人が、思い通りの味、見た目、収量のトマトを一年中、作れる」という、やや信じ難いもの。農学者である玉井氏が、4人の農業素人の若者たちに現場で理論をたたき込み、木の見方を教え、勉強会を重ねながら失敗の少ない栽培体系を確立していった。

培地は6㎝四方の小さなロックウール。長期多段どり栽培の真逆をいく「短期少段どり」で、木は4段までしか伸ばさず、年に4回転させる。サンファーム中山ではハウス8棟を使い、作期をずらしながら9ステージで通年栽培をおこなっている。

この栽培法の利点はいくつもある。まず、短期間に多くの栽培経験が積めること。たとえばサンファーム中山では「1年で約16年分の経験値」と言っている。培地が小さいため反あたりの株数が一般トマトハウスの2〜3倍、一人あたりの担当面積は一般農家の約1・7倍で、年4作だからだ。また、ハイワイヤーを使う多段どりでは作業全体の4割を占めるという誘引作業が、4、5回で済む。そして、キューブ型のロックウールは土も根も互いに完全隔離され、病気が蔓延しづらい。

さらに、これがこの栽培法の肝だが、できたトマトの全量をフランチャイズ方式によってHappyQualityが買い取る。なぜそれが可能かといえば、この栽培法で作るトマトの品質が担保されているからで、その品質をもとに宮地氏があらかじめ販売先を確保しているからだ。

10aに4200本と高密植。4段どりなのでビニールハウスで十分だ。培地が小さいため20分間かん水が途切れると枯れる危険がある。

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