地域の「当事者意識」を呼び覚ますこと。 そこからスタートすれば、地域は強い。

『農山村は消滅しない』著者 ● 明治大学農学部教授 小田切徳美

2014年、増田寛也座長の日本創成会議が〝消滅可能性都市〟を実名で公表したいわゆる「増田レポート」。
同年、明治大学農学部の小田切教授は『農山村は消滅しない』を出版し、
具体的な事例とともに「どっこい、地方は生きている」と力強いメッセージを投げかけた。
出版時におこなった小田切教授のインタビューで、少子高齢化の止まらない日本で地方が生き抜く術を探る。

農業ビジネスマガジンVol.10(2015年7月発売)より転載

2020/08/03

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小田切徳美

Profile/(おだぎり・とくみ)1959年生まれ。明治大学農学部教授。農政学・農村政策論・地域ガバナンス論。東京大学大学院農学研究科博士課程単位取得退学(農学博士)。(財)農政調査委員会専門調査員、高崎経済大学助教授、東京大学大学院助教授などを経て、現職。(※プロフィールは取材当時のものです)

『農山村は消滅しない』
岩波新書(2014年12月19日発行)
780円(税抜)

農山村は強くて弱い

この本を著した目的は二つあります。一つは、やはり「増田レポート」に全国の農山村が揺さぶられていること。その結果、地域に「諦め」が発生していること。そのことに非常に強い危機意識を持ったためです。

二つめは、こうした直近の状況にかかわらず、元気に再生に向かって動き続ける農山村が出てきていること。これは1990年代中頃、バブル経済が崩壊したころから徐々に目立ってきた動きです。高度経済成長からバブル経済を経験して、外側からの働きかけではなく、農山村というのは内発的に生き残っていくのだという一種の覚悟が生まれた。そういう地域が自ら地域づくり・地域おこしに乗り出して、一歩二歩と前進していく営みが見られるようになってきました。

これを広く社会に紹介したいと思ったのです。同時に、自ら再生に向けて動き出す地域に共通するポイントは何なのかを、示したいと考えました。むしろこちらが主目的で、本を書こうとしたタイミングで、たまたま増田レポートによるショックが起きたため、その反論をきっかけとして全体を論じる構成にしました。

本来なら、「地方消滅」という言葉には地方から大きな反発が起きるはずです。事実、かつて「限界集落」という呼び方に対しては各方面から反発が起こりました。地方自治体が「小規模高齢化集落」と言い換えたり「生涯現役集落」とポジティブな呼び方を考案したりと、反発がパワーになっていました。しかし今回は一部で地元からの反論が起きたものの、全面的なうねりにはなっていない。「消滅」に至るとされるのが2040年とタイムスパンが長いこともあるでしょうが、やはり私はそこに地方関係者たちの諦念を感じるのです。

私の基本的な認識として、日本の農山村や集落は、そんなにやわなものではない、と思っています。というのも、そこに住む人たちが次世代へバトンを渡すことに、非常に強い想いを持っている。今は東京でサラリーマンをしている後継者のほうも、60歳を過ぎたら戻るつもりという人が少なくない。戻らない人も、盆と正月には帰郷して農作業を手伝っている。空間的に離れていても、地域を支えるしくみが確かに存在している。これが、農山村が基本的には強靱であると私が思う点です。

今回、増田レポートで諦めが一気にまんえんしたように、農山村にはぜい弱な側面もあります。しかし先にも述べたように、それを埋め合わせるような地域づくり運動が、バブル経済崩壊以降に出てきている。地域を内発的に発展させようというものです。

三つめは、とりわけ2011年以降、都市の若者の間で顕著になってきた田園回帰の志向です。少なくない若者たちが農山村に移住し、これが確かな一本の流れになってきました。ちなみに増田レポートの行った推計は2011年の東日本大震災以前の数字をもとにしています。

この三つの大きな要素が、ただ数字だけで地方消滅の危機感を煽る増田レポートに対して、「そんなに単純なものではないよ」と言える根拠なのです。

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