「イチゴで新規就農!」の徹底アドバイス

株式会社さんたファーム 篠崎俊介

私は千葉県千葉市において、〈さんたファーム〉というイチゴの観光農園を経営し、2021年に2作目を迎えた新規就農者です。
就農に至るまでは就農先・研修先の選定、資金調達など、就農後は栽培技術の確立、自然災害、新型コロナ感染拡大と、多くの困難に直面しました。これから就農するみなさんには、しなくてよい苦労をしてほしくないと思い、この場を借りてイチゴでの新規就農のプロセス、留意点などをご紹介したいと思います。
新規就農のプロセスには雇用就農からの就農など、いくつかのルートがあります。ここでご紹介するのは最も一般的な、就農者向けの研修を受けて独立就農するというプロセスです。

農Bizムック「イチゴで稼ぐ!」(2021年4月発行)より転載

2021/05/19

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農場長を務める共同経営者の金巻燦太(左)と私(右)

PROFILE
しのざき・しゅんすけ/大学時代にIT関連事業で起業。ITコンサルティング、インターネット通販に関わるシステム開発など一貫してIT分野でキャリアを積む。タイと台湾に計8年滞在。2018年、趣味の仲間だった金巻燦太氏とともに農業法人㈱さんたファーム設立。2020年より千葉市内の9連棟ハウス・約20aで1万2000株のイチゴを高設栽培し、完全予約制の観光摘みとり園を運営、好評を博す。コロナ禍による営業自粛で冷凍イチゴ事業を開始。直販やキッチンカー出店にも力を入れる。

 

「イチゴで新規就農」に必要なプロセス(一例)

ステップ1
徹底的なリサーチ

最初に行うべきは、徹底的なリサーチです。

関連書籍を読み込む、就農関連のイベントに足を運ぶ、自治体や農家を訪問するなどさまざまな方法があります。施設園芸はハウスの建設などに大きな投資が必要になるため、スタートしたら片道切符。就農後の転職は、ほぼ不可能といっていいでしょう。本当に自分の望むライフスタイルに合うのか、検証する時間は長ければ長いほど、思惑と現実のズレ、後悔は減ると思います。

収集した情報を分析する際、発信元の思惑を考えることはとても重要です。情報を発信する側は、自分たちにとって不都合な情報は発信したくないもの。情報の裏側にある真実を読み取る力が必要になります。

情報収集はインターネットで簡単にできる時代ではありますが、本当に重要な情報は、農家や自治体を訪問するなど、足を使って探す必要があります。ただし農家さんの訪問は、相手の貴重な時間を頂戴するのですから、インターネットや書籍などで十分な情報収集を行い、農家さんが話す内容を理解できるようになってからにすべきでしょう。

私の場合、1年間はインターネットでの情報収集と書籍を読み込むことでイメージを固め、次の2年間で全国の農家や自治体を訪問しました。そこで得た情報や人的ネットワークは現在でも私の大切な財産になっています。

情報収集で具体的に得ておきたい事柄を挙げていきましょう。

新規就農者の体験談
先輩新規就農者がどんな困難に直面し、どのように乗り越えてきたのかを知ることは重要です。とくにお勧めしたいのが新規就農者の失敗の事例を集めること。私が事前に知っておいてよかったのは、「研修先との関係が悪化し、その地域で就農できず県外で就農した事例」「地主との関係が悪化し、地代を10倍にされた事例」など、研修先や農地の選定ミス事例でした。こうした事例を多く集めることで、どこにどんなリスクが潜んでいるかを明確にすることができます。

就農に関する制度(青年等就農計画制度)
新規就農者は、まず青年等就農計画を市町村に認定してもらい、「認定新規農業者」になるのが一般的。そのために「青年等就農計画制度」の概要は完全に理解しておく必要があります。
認定新規農業者に対しては融資制度、給付金など、さまざまな支援が用意されています。別の言い方をすれば、認定新規農業者にならない限り積極的な公的支援を受けることはできません。
年齢などの要件に該当しない場合は、全額自己資金で賄える資金力がない限り、施設園芸での就農は極めて困難になることは覚えておきましょう。
・融資制度
新規就農者は、認定新規農業者向けの融資制度である「青年等就農資金」もしくは「農業近代化資金」という2つの制度を利用できます。青年等就農資金の方が条件が良いため、こちらを用いるのが一般的です。
・給付金制度
認定新規農業者に対しては、研修中の2年間と就農後の5年間、1年あたり150万円が支給される「農業次世代人材投資資金」という給付金制度があります。
これは経営が安定するまでの生活を支えてくれる重要な制度ですので、給付要件をしっかり把握してください。

補助金制度
自治体ごとに各種の補助金制度があります。施設園芸は莫大な投資が必要なので、施設や設備に対する補助金制度が充実している自治体は、就農先の有力な候補となります。

農業経営収支試算(農業経営指標)
品目、営業形態、作型ごとの経営収支試算(農業経営指標)が、多くの自治体から出ています。それぞれの地域特性が反映されていますので、できる限り多くのサンプルを収集して検討しましょう。
月別、作業種別の労働時間などのデータも添付されていることが多いので、農業の大きな課題である繁閑の激しさをどのように解決するのかについても、事例を集めておけます。
イチゴ生産は、経営形態では市場出荷、直売、観光の3パターン、作型では促成栽培、半促成栽培、夏秋栽培が主なもの。それぞれ収益性、必要労働力、必要な技術がまったく異なります。

栽培技術
イチゴの栽培方式は多岐にわたります。育苗では、ポット育苗、空中採苗、地植えなど、本圃では、土耕、高設栽培などいくつかの方式があり、それぞれ特性が異なります。
いったん導入した栽培方式を途中で変更することは、施設や設備の関係から困難。また土耕栽培には特有の技術があり、土耕での就農を希望する場合、通常は土耕栽培の農家で研修して技術を習得します。つまり、研修先の選定までに栽培技術について理解していないと、研修先や導入施設、設備の選択を適切に行えない可能性があるのです。市販されているイチゴ栽培の専門書には、すべて目を通して理解しておく覚悟で臨んでください。
私の場合、リサーチ1年目に市販されているイチゴに関する書籍はすべて購入し、絶版のものは古本を取り寄せて読みました。最初は理解できませんでしたが、自治体や農家を訪問していく過程で徐々に理解できるようになりました。

農業用施設・設備に関する情報
施設園芸での新規就農は、栽培技術や経験のない状態で施設・設備の選定を行い、大きな投資の決断をするという難しさがあります。前述の栽培技術とも関連しますが、農業用ハウスの規格、ハウス内設備、高設栽培システムや育苗システムの種類などについては、ある程度リサーチをしておきましょう。たとえば農業用ハウスは、主要メーカーのカタログを集めて読むだけでも、パイプや建て方の違いで強度にどのような影響が出るかが数字で解説されていて大変勉強になります。

 

ステップ2
必要技能・経験の習得

就農は農業分野での起業であり、小商いを始めることです。経営、経理、広告宣伝、栽培管理、設備管理などをバランスよく取り仕切る必要があり、前職の経験や能力など何らかの強みがなければ、成功するのは至難の業です。

もし農業に活かせる経験や能力がなければ、起業はそれを得てからでも遅くはないと思います。営業ならトークスキルが融資や農地確保などの交渉ごとに、建設関係の経験・能力はハウスや設備の施工や管理に、飲食関係は将来の六次化(六次産業化)に役立つでしょう。

どんな能力を身に着けるかは人それぞれ。強いて言うなら、昔から帳簿づけは商売の基本と言われますので、基本的な会計の知識は就農前に習得することをお勧めします。現在は良い経理ソフトがあるので帳簿づけ自体は難しくないですが、経営者は決算書の内容を理解して、経営状況を判断できることが求められます。

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