「温暖化」で農業に起きていること

「温暖化」は農業にどんな影響を与えるのか?
温暖化によって作物にあらわれる現象とメカニズムを、
農業における温暖化研究の第一人者、農研機構の杉浦俊彦氏に伺った。
さらにデメリットの軽減策、温暖化をメリットに変える新規作目について、
研究者の立場からアドバイスを頂いた。

農業ビジネスベジVol.25(2019年春号)より転載

写真・図版提供/杉浦俊彦

2020/08/26

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お話:杉浦俊彦氏
農研機構
果樹茶業研究部門
園地環境ユニット長
農学博士


温暖化による栽培面のデメリットとは?

冬野菜の値崩れ、夏野菜の生育障害

とくに葉菜類、根菜類は生長が温度に影響されやすく、寒い時期に育てる冬・春野菜──キャベツ、ハクサイ、ダイコンなどは、温度が上がると生長が早まります。農家はだいたい収穫時期がずれるように種蒔きや定植を行いますが、秋の温度がなかなか下がらず暖冬へ移行すると、一気に生長してしまう。すると何が困るかというと、まず収穫期が集中して値崩れを起こし、その後は市場が野菜不足に陥ります。この値段の乱高下が第一の問題です。

不足すれば市場価格が上がり、農家は儲かるからよい、というのは昔の話。いまスーパーなどは輸入品を増やして対応します。消費者も多少の値段の差なら国産野菜を買いますが、あまりにも国産の値が上がると輸入野菜を買うようになる。すると慣れてしまうのです。「輸入でいいじゃない」と思うようになり、値段が戻っても輸入野菜を買うようになる傾向があります。

夏野菜はどうかというと、温暖化で夏の気温が上がり過ぎて、作物が育たなくなる現象が起こります。特に高原野菜のレタス。夏の平場では暑すぎるので涼しい高原で栽培するのが高原レタスですが、いま高原でも夏場の気温が上がって、栽培の難度が上がっています。

果樹の「着色不良」が起きる

*リンゴ、黒系ブドウ、カキ、ミカンなど

サクラの開花は、気温が高くなると早まりますが、逆に紅葉の時期は遅くなります。紅葉の色素であるアントシアニンは、気温が一定程度下がらないと合成されないからです。

リンゴなどの果皮を赤くするのも、このアントシアニンです。
開花は早くなっているので果肉が熟していく一方で、温度が高くてアントシアニンの合成ができず、果皮はなかなか赤くなりません。これが「着色不良」の原因。リンゴのほか、同じくアントシアニンで着色する巨峰やピオーネのような黒系のブドウ、またアントシアニンと同様に高温で合成が阻害されるカロチノイドで色づくカキ、ミカンなどのカンキツも同じことが言えます。

植物には生長するのに最適な温度というものがあります。たとえば果樹の開花最適温度は25〜30℃。この気温になる時期が早まれば、以前より早い時期に花が咲き、結果的に生長も早まります。そして着色の最適温度は15〜20℃ですが、近年は秋の時期に20℃を上回ることが多いため、着色が遅れる。温度が高い=生長が早くなる、と一般には思われていますが、着色のように高温によって「遅くなる」こともあるのです。

秋の気温が20℃以下に下がらないとリンゴの着色が遅れ、果実が熟しても果皮が赤くならない。

果樹の「発芽不良」が発生する

*落葉果樹(ナシ、ブドウ、モモなど)

冬越しをする果樹、なかでもナシやブドウなどの落葉果樹は、越冬中は葉を落として眠っているようにも見えますが、実際には冬の間も木の中で発芽のための準備を行っています。真冬の生育の適温は非常に低く、6℃程度。一定期間この低い温度に当たっていないと準備が進みません。これを「低温要求性」といい、冬が普通に寒ければ低温要求性は満たされます。

温暖化で問題になるのが、まずハウス栽培の果樹です。ハウス栽培では、春になる前に加温して芽吹きを促し、露地栽培ものの出荷が最盛期を迎える前に収穫・出荷するため、もともと果樹が低温に当たる期間が短くなっています。低温要求性が満たされているかどうかは外見ではわからないので、温暖化で寒くなる時期が遅くなっても従来通りの日程で加温を始めしてしまい、発芽しない、発芽しても開花しない、という問題が起きるのです。

発芽不良は、露地栽培でも起こります。

専門的には植物の「耐凍性」といいますが、秋になって気温が下がってくると、植物は葉を落とすなどして寒さに対する準備を始めます。その後も寒さに反応して耐凍性をだんだん高めていくのですが、まず秋の気温が下がらないと準備に入れない。そして、たとえ暖冬でも冬期には何日か、寒波で気温が極端に下がる日があります。すると準備ができていない木は寒波に耐えられず、春に花をつける花芽が低温障害を受け、春になっても発芽しなくなります。「暖冬」なのに「低温障害」が起きるのは、こういうメカニズムからです。

黒系ブドウの着色実験。こちらは平均温度25℃。

平均気温27℃だと着色にこれだけの差が出る。

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