日本で作るイタリア米 〜リゾットの味を引き出すカルナローリ種〜

江戸時代から続く農家がイタリア米にチャレンジ。
想定以上のアドバンテージをバックに販売量を拡大中!

たけもと農場(石川県能美市)

農業ビジネスベジVol.29(2020年春号)より転載

文/吉田直人 写真/イマデラ ガク

2020/08/21

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イタリア料理にとって米は重要な食材だ。日本のイタリア料理では小麦粉を原料とするパスタやピッツァが人気だが、本場イタリアでは同じ炭水化物系の料理で、米で作るリゾットもよく食べられる。米は夏にはサラダにもするし、南イタリアではご飯に具を詰めて揚げた郷土料理(いわゆるライスコロッケ)もポピュラーなメニューだ。

イタリアで米づくりが盛んなのは北部。アルプスの雪解け水が流れ込むポー川支流の平野部はヨーロッパ随一の米作地帯で、見渡す限りの水田の遠方に雪をかぶったアルプスが屹立する。どこか日本の田園地帯を思わせる風景だ。イタリアの米の自給率は100%で、半分を国内で消費し、半分をヨーロッパなどに輸出する。

品種は日本同様、さまざまなものが作られているが、リゾット向きの品種として評価が高いのがカルナローリ種。1945年にビアローネ種とレンチーノ種を交配して生まれた品種だ。日本ではアミロース値の低い粘り気のある米が好まれるが、カルナローリはアミロースが豊富なため粘りがなく、大粒で超硬質なため煮崩れることがない。調理時間が長い分、調味料もよく吸収する。日本でも本物志向のイタリアンのシェフにはカルナローリは定番素材で、イタリアからの輸入米が出回っている。

イタリア野菜のように米も日本で作れないか?

このカルナローリを日本で作って好評を博している生産者がいる。有限会社たけもと農場だ。水田があるのは、江戸時代に隆盛を誇った加賀百万石のお膝元、石川県能美市。日本海を前面に、霊峰・白山を背景に田園地帯が広がる地域である。

たけもと農場を経営するのは竹本彰吾氏、37歳。江戸時代から連綿と続く農家の跡とりで、大学を卒業し22歳で実家に戻って就農した。

たけもと農園の竹本彰吾氏。「代々新しいことに挑戦し続けてきた」イノベーティブ農家の跡取りだ。

イタリア米に取り組み始めたきっかけは、就農4年目ごろの金沢市内にあるイタリアンのシェフとの出会い。食事に行って「僕は米農家なんですよ」と言うと、リゾットが出てきて話が弾んだ。シェフの話は次のようなものだった。

「日本の米は粒も小さくつぶれやすいので、リゾットを作ってもべちゃっとしてしまう。イタリア米だとこのように粒感がしっかりして、非常にいい感じに仕上がる。でも輸送費や関税がかかるので材料費がかかりすぎ、料理の値段が高くなってしまうんです」

そこから話が発展していく。竹本氏が「イタリア野菜を日本で作っているケースもある。だったら米も作れるかも」というと、シェフは「だったら作ってほしい」と身を乗り出した。

竹本氏もその気になって調べてみたが、植物防疫法に抵触するため、タネは輸入できないことがわかった。それではと考えた妙案が、玄米をイタリアから送ってもらい、それを種子代わりにして発芽させることだった。

シェフの評価は輸入米より美味

しかし、200年以上続く農家が外国米の栽培に乗り出したことに、違和感や反発はなかったのだろうか。

「うちには、各代でなにか新しいことに挑戦し続けてきた伝統がある。じいちゃんは米栽培を究めた人で、収量日本一で顕彰を受けました。父は通信販売で個人のお客さんに販売したり、有機栽培に取り組んだりしたし、法人化も行いました。自分は自分で、なにか新しいことをしなくてはならないと考えていたところだったんです」

そのチャレンジがイタリア米だった。2009年のことだ。

「カルナローリについては、いくつかの品種の中から特にセレクトしたわけではありません。当初は知識も全然なくて、送ってもらったものをそのまま使うという感じでした」

イタリアにはリゾット用としていくつかの品種がある。

「イタリア米も品種改良が進んでいて、新しい品種が栽培されるケースが増えているそうです。カルナローリはわりと古い品種で、稈が長いので作りにくく、あちらでも栽培面積は減っているらしいです。でも、リゾットに一番向いているのはカルナローリという定評は変わらないようですね。粒が大きいので食感がいいと。結果的にカルナローリでよかった」

シェフはイタリア産米と比較すると少し小粒で若干柔らかいが、料理に使うには特に問題ないと評し、「味でいえば、輸入米よりもうちのカルナローリの方がおいしいといってくれたのです」と竹本氏。

実はそのシェフ、イタリア修行中から現地の米でリゾットを作っていたが、精米後の日数経過をあまり意識していなかったらしい。つまり、白米にしてからの劣化を気にかけずに使っていたわけである。そこへ、たけもと農場のカルナローリを試してみたところ、甘みがあっておいしいと評価してくれたのだ。

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