40年後の産地化をめざす「日本最北限のスダチ」

東北の山形県でも平均気温は100年で1.2℃上昇。
とくに冬日は10年あたり2.5日の割合で減少している。
温暖化対応ビジョンをいち早く策定した県は、
「栽培環境の好適化」というプラス面にも着眼。
そうして始まったのが東北初カンキツ産地化へのチャレンジだ。

農業ビジネスベジVol.25(2019年春号)より転載

写真/本間聡美(特記以外)

2020/08/31

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2010年に3年生苗を植えたスダチは、今年(2019年)で12年目。8年生時から被覆せずに越冬させている。

被覆資材は、畑のベタがけなどに使う不織布より硬くて巻きやすい防風ネットも試している。7年生の無核系スダチ。

不可能とされていたカンキツの栽培に挑戦!

果樹王国としての危機感

100年後、東北地域の年平均気温は、現在の関東地方や北陸地方と同じになる──。

2007年に農水省が発表した「地球温暖化対策総合戦略」にもとづき、山形県が策定した「地球温暖化に対応した農林水産研究開発ビジョン」(初版は2010年、2015年改訂)には、そんな未来予測が描かれている。

温暖化は、長期的には平均気温の上昇をもたらすが、短期的には急激な低温を含めた激しい気象変動も引き起こす。この気象変動は、何より果樹に最大の影響を与えることになる。

サクランボやリンゴ、洋ナシのラ・フランスなどの果樹が農業産出額の1/3を占める山形県にとって、だから温暖化と気象変動は大問題。かつてない平均気温の上昇に対応しようにも、果樹の育種には15年以上かかり、育成品種の普及にはさらに30年近い期間を要する。そこで同ビジョンは50年後を見越し、「適応策」「防止策」とともに、温暖化する環境を積極的に活用する「活用策」も盛り込んだ研究に、県を挙げてとり組む方針を決めた。

低温より手強い「寒風」

活用策とは、つまりは暖地型作目の導入だ。果樹では、これまで栽培が不可能とされていた常緑果樹のカンキツ、温度不足で渋が抜けにくかった甘ガキなどが、いずれ気温の上昇によって栽培できるようになる。50年後の産地化をめざすには、果樹は今から準備を進めなければならないが、問題は越冬。年によって暖冬も厳冬も出現する現在の気候の中でも、何とか商業栽培が可能な品目・品種を見つけ、栽培技術を確立することが必要だった。

山形県が果樹王国になったのは、明治11年に初代県令の三島通庸が開いた「千歳園」の功績が大きい。さまざまな果樹の栽培試験をくり返し、結果が良好な品目・品種を各地で普及した。2010年、県内の農業試験場は〝現代版千歳園〟として、暖地型作目のスクリーニングのための栽培調査を始めた。

カンキツ栽培調査の中心となったのは、日本海側の庄内地方、酒田市にある産地研究室。旧名を砂丘地農業試験場といい、地域の土壌はほとんどが砂地のため水はけがよく、県内では温暖な気候のためカンキツ栽培に適している。

「最初に植えたのは、スダチ、カボス、ユズ、ハナユ、温州ミカン、タンゴール、レモン、ライムの8種類。このうちタンゴールとレモン、ライムは翌春に枯れてしまいました。ポイントは特に幼木時代の耐寒性です」と同研究室の開発研究専門員、安孫子裕樹氏が話す。

「経済栽培するには露地で作れることが大前提。幼木の頃は被覆資材の不織布などを木にスッポリ被せて、庄内の冬を襲う寒風や地吹雪から守ります。幼木でも越冬できたのは、スダチ、カボス、ユズ、ハナユ、温州ミカンだけでした」

一方、酒田港の沖合40㎞ほどにある離島の飛島でも栽培実験を行ったが、ここでは不織布で全種類のカンキツが越冬できている。たとえば昨年は冬が非常に寒く、酒田市の研究室の圃場は最低気温がマイナス10・4℃まで下がったが、飛島はマイナス5℃。これはレモンもギリギリ枯れずに済む温度だ。

しかし安孫子氏は、本当に問題なのは温度ではないと言う。
「スダチも本来はマイナス6、7℃くらいが限界と言われます。でも酒田のスダチは昨年のマイナス10℃にも耐えた。被覆資材は風をさえぎるだけで保温力はありません。庄内では冬の寒風対策がいかに大事かということです」

厳冬だった2017~18年も幼木以外は被覆をせずに越冬させた。2017年12月の試験圃場。(写真/産地研究所)

ハナユ(花柚子)は被覆なしで冬越しできた。

温州ミカンも越冬できる。ただし果皮が厚く糖度が低いため、まだ商品化は無理。

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